治療家の基礎知識。陰陽論という考え方
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中国古代哲学の核である陰陽論(いんようろん)は、東洋医学でも用いられる考え方で、柔道整復師や鍼灸師を目指す学生がはじめに学ぶ基本の理論です。陰陽論では、宇宙に存在するすべてのものは陰と陽に分かれ、対立する陰と陽がバランスを取りながら存在していると考えられています。これを人体に応用した、東洋医学における陰陽論について詳しく解説します。

目次

  1. 陰陽論(いんようろん)は古代中国で生まれた理論
    1. 陰陽論の基本「あらゆるものは陰と陽に分けられる」
    2. 1日、1年……陰陽論の分類方法
    3. 陰陽のバランスを
  2. 東洋医学の「中庸(ちゅうよう)」と陰陽論
    1. 東洋医学における中庸とは
    2. 体に不調が起こっているときは中庸から外れた状態と考える
  3. 陰陽論で重要なワードとその意味
    1. 陰陽の相互依存を「互根(ごこん)」という
    2. 陰陽が互いにけん制していることを「制約」という
    3. 陰陽の量が増減することを「消長」という
    4. 陽から陰、陰から陽に代わることを「転化」という
    5. 陰と陽の平衡状態が崩れると「陰陽失調」になる
  4. 治療家は、患者の陰陽のバランスを整え健康な状態に導く

陰陽論(いんようろん)は古代中国で生まれた理論

陰陽論(いんようろん)は、中国の古代哲学で生まれた理論です。宇宙に存在するあらゆる物・事象を「陰」と「陽」の対立する2つに分類し、これらはお互いに過不足を補い合い、バランスを取って存在していると考えられています。

陰陽太極図
(画像=陰陽太極図)

【陰陽太極図】
参考:「郡市等医師会だより 漢方医学の神髄を求め続けて」

多くの人が1度は目にしたことのあるこのシンボルは、「陰陽太極図(いんようたいきょくず)」と呼ばれるものです。この図は、陰と陽が相互に作用しながらバランスを取り存在するさまを示しています。

これは人体にもあてはめられ、心身の陰と陽のバランスが体調に関係するとして、東洋医学では病気の治療に取り入れられるようになりました。陰陽論は東洋医学の基礎理論であるため、治療家を目指す方は必ず理解する必要があります。

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陰陽論の基本「あらゆるものは陰と陽に分けられる」

陰陽論の基本である「陰と陽の分類」について、以下を参考にしてみましょう。

【陰陽分類の例】

月、女、暗、静、血、寒、虚、裏、消極
日、男、明、動、気、熱、実、表、積極

参照:クラシエ薬品「漢方基礎講座 中医学の診断法」より
陰には暗いもの、下にあるもの、下に降りるもの、消極的なものがあてはまります。これに対して、明るく、上にあり、昇り、積極的なものが陽に分類されます。

「日が昇れば月は陰に」というように、対立する2つの陰と陽はバランスを取りながら存在しているものであり、どちらが良く、どちらが悪いというものではありません。

陰と陽は主に次の4つの作用によってバランスが保たれています。

【陰と陽の4つの特徴】

陰陽互根(いんようごこん) 陰があるから陽がある、またその逆。互いが存在すことで己が成り立つ
陰陽制約(いんようせいやく) 陰と陽が互いにバランスを取るためにけん制しあう作用
陰陽消長(いんようしょうちょう) 陰と陽のどちらかのエネルギーが強まると、どちらかが弱まる
陰陽転化(いんようてんか) 陰陽どちらかのエネルギーが高まり極まると、次の瞬間にもう一方に転化する

参照:一般社団法人三重県鍼灸師会「陰陽について」より

これら陰と陽のバランスが崩れた時、病気になるとされています。そのため、治療家は陰陽のバランスを示す上記4つの特徴をよく理解しておく必要があります。この4つの特徴について、詳しくは後述します。

1日、1年……陰陽論の分類方法

陰陽は1日の時間の流れや四季にも当てはめることができます。1日のうちでは昼が陽で夜が陰、一年では春夏が陽で秋冬が陰といった風です。

人体では、体の表面が陽、体の深部が陰、背中側が陽でお腹側が陰、上部が陽で下部が陰など、あらゆる部分を陰と陽に分けることができます。

体の臓器も五臓と六腑で陰と陽に分けられます。口から肛門までの六腑を陽、肝、心、脾、肺、腎の五臓を陰とします。さらに、人の体は陰と陽が対立しあいながらバランスを取り、1つの体として機能しているのです。

陰陽のバランスを

陰陽論はとても抽象的に感じられる理論でしょう。しかし、患者を治療する際に陰陽は重要な治療指針となります。

東洋医学に陰陽論を適用させる際、基本となるのが「気血の調和」です。気血とは体の基本である「気」と「血」のことで、陰陽の調和が保たれている状態が正常な状態なのに対し、このバランスが崩れると病的状態に陥ると考えられています。気と血についても、気は陽、血は陰に分類できます。

陰陽のどちらの気血が余っていて、どちらが不足しているのかを診察で見極め、余っているものは取り除き、不足しているものには補うよう、食事・生活指導や経路治療を行います。

病気の起こり方も陰陽に分けられ、機能減弱の傾向がある病気は陰、機能亢進の傾向がある病気は陽とされます。このように、東洋医学において陰陽論は診察や診断、治療に日常的に用いられています。

一方で人体と病気はそれほど単純なものではなく、体の部位によって陰陽のバランスが異なるために対応に苦慮することもあるでしょう。治療家にとって陰陽論は、基本でありながら奥深く、学習を深めていかなければならない領域です。

東洋医学の「中庸(ちゅうよう)」と陰陽論

陰陽の相反するものがバランスを取っている、その中間に「中庸(ちゅうよう)」はあります。陰陽論では、心身ともに健康な状態では、陰と陽のバランスが保たれていると考えられます。中庸は、そのバランスが保たれている「陰にも陽にも偏っていない」状態を指します。

東洋医学における中庸とは

東洋医学においては、中庸を守ることが養生の道とされています。東洋医学における中庸とは、その人にとって偏りがなく、バランスが取れている状態を指します。

陰陽論や中庸の考え方を用いて治療にあたる際には、患者ごとに異なる陰陽のバランスを見極めて、中庸になるようバランスを整えます。

体に不調が起こっているときは中庸から外れた状態と考える

体に不調が起こっている状態は、「中庸を保たれていない状態」と言い換えることができます。ただし、中庸はあくまでもその個人にとってバランスよく偏りのない状態を意味するもので、「平均」という意味ではない点に注意が必要です。

私たちは1人として、同じ体・同じ思考ではないように、中庸を保てるバランスも人によって異なります。過去に同じ症状の患者に対して行った治療が有効だったとしても、目の前にいる患者にはそれほど有効ではないこともあるのです。

治療家は、目の前の患者に合わせて、中庸を考え治療する必要があります。

陰陽論で重要なワードとその意味

陰陽論を理解するうえで重要なワードがいくつかあります。ここからは、陰陽論の基本となる言葉とその意味について見ていきましょう。

陰陽の相互依存を「互根(ごこん)」という

陰陽互根とは、陰と陽は依存する関係で、陰がなければ陽はなく、陽がなければ陰はない、あるいは陰が陽を生み、陽が陰を生むことを示す言葉です。

光(陽)があるから影(陰)があるという概念を示しています。

陰陽が互いにけん制していることを「制約」という

陰と陽は、互いに依存しながらけん制しあっています。これは、陰と陽がお互いに過剰にならないように、もう一方を抑制する働きを示しています。この作用があることで、陰陽のバランスが維持されているのです。

陰陽の量が増減することを「消長」という

陰と陽は互根と制約でバランスを保っています。しかし、陰と陽は常に半々のパワーで存在しているわけではありません。波のように、上限と下限の範囲内で常に変動を繰り返しています。この動きを消長といいます。

【陰陽の波形】

陰陽の波形
(画像=陰陽の波形)

参照:「徹底図解 東洋医学のしくみ―気・血・津液から鍼灸、漢方治療まで」兵頭明著
京都東山三条 白澤堂ブログ〜東洋の医学と哲学「東洋医学における陰陽とは(2)」

消長の波は、上限にたどり着くと下降し、下限にたどり着くと上昇し、また頂点に向かうというように、規則正しく動いています。そしてその動きは陰と陽で反比例します。

朝から昼に向かって暖かさが増し、夜に向かって冷えるのも消長です。

消長には、陽消陰長と陰消陽長の2種類があります。陽消陰長は、陽の気が減り陰の気が増加していくさまを示しています。陰消陽長はその反対で、陰の気が減り陽の気が増加していくさまを示す言葉です。

陽から陰、陰から陽に代わることを「転化」という

陰陽は、それぞれがピークに達すると反対の要素に転化します。陰が高まると陽に、陽が高まると陰に転じます。陰陽太極図の白地にある黒丸と黒地ある白丸は、陰陽が転化することを示しているものです。

例えば、季節では夏至や冬至がそれに当たると言われています。これは夏(陽)から冬(陰)、冬(陰)から夏(陽)への変換点だからです。

陰と陽の平衡状態が崩れると「陰陽失調」になる

前述した互根、制約、消長、転化は陰と陽のバランスが保たれた正常な状態で起こっているものです。このバランスが崩れると、「陰陽失調」となり、心身に病的な症状をもたらします。

陰陽失調の状態はさらに次の4つに分けられます。

  • 虚証(きょしょう)
    虚証とは、陰と陽の要素のいずれかが不足した状態です。陽の気が不足している状態を陽虚、陰の気が不足した状態を陰虚と呼びます。

  • 実証(じつしょう)
    実証は、陰の気と陽の気を侵す邪気(病的存在)によって陰と陽のバランスが崩れている状態を指します。日本漢方でも同じく「実証」という言葉がありますが、この場合は体力が充実していることを示します。一方、中医学では邪気が存在していることを意味します。

同じ東洋医学に属している中国の中医学と日本の漢方医学でも、同じ言葉で意味が異なる点に注意が必要です。

  • 虚実挟雑(きょじつきょうざつ)
    虚実挟雑は、虚証と実証が混ざり合った状態です。慢性的に体調不良を感じている方はほとんどが虚実挟雑の状態になっていると考えられます。

  • 陰陽両虚(いんようりょうきょ)
    陰陽両虚は、陰と陽の両方が不足している状態を指す言葉です。陰陽互根の原理で考えるとわかりやすいでしょう。陰と陽は互いに依存する関係のため、陰と陽のどちらかが不足すると、もう一方も徐々に不足し最終的には両方が不足します。

また、陰と陽のどちらかが満ちすぎる状態になると、もう一方が抑圧によって次第に不足する状態に陥ります。すると、満ちすぎていた要素も徐々に不足し、最終的には陰陽両虚に陥ります。

治療家は、患者の陰陽のバランスを整え健康な状態に導く

東洋医学では、このように中国の古代哲学における陰陽論を用いて診察や治療を行います。東洋医学の治療は、心身のバランスを整えて不調の原因を取り除き、患者本人の自然治癒力を引き出すものです。

より多くの患者を健康な状態に導ける治療家となるためには、基本である陰陽論を深く理解することが重要です。陰陽論を身につけ、患者それぞれのケースに対応できる治療家になれるよう努めましょう。

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